R1250GS カフェしなの

R1250GS、事故で廃車から買い替えました

霊峰 剣山

初めてTBI(ツール・ド・ブルーアイランド=5日間で四国を1周するツーリングイベント)に出たのは、99年だったか。
それまで乗っていた750ccのアフリカは、転んだときに重くて腰を痛めるので、参加直前、急きょ中古で買ったアフリカツイン650(RD03)を買ったが、これがとんでもないシロモノだった。
エンジンのボアアップを改造マフラーでごまかしていて、低回転時の粘りが全然なく、「下がスカスカ」だった。
レギュレーションで改造マフラーは不可。
ノーマルマフラーに交換して臨んだ、初日のSS(スペシャルステージ)「帝人グランド」に作られた「大坂」は、途中で失速して登れなかった(ハズカシー)。
 
なんとか数日を走り切り、ゴールまであと2日となったその日は、待ちに待った剣山のロングダートの日。
天気も良く次のCP(タイムチェック)まで時間に余裕もあったので、競技区間でないリエゾンのフラットなワインディングダートを、新緑の景色を楽しみながら走っていた。
 
ブラインドの右コーナーにさしかかったそのとき、突然、右の山側から白い「まり」のようなものが「ポーン」と転がってきて、左の谷に消えていった.....。
「えっ?!」
と思った次の瞬間、おかっぱあたまに白いブラウス、赤いスカートをはいた女の子が、「まり」を追いかけるようにバイクの前を横切って、谷に「飛んでいった」........。
 
「あ”~??!!」
バイクはライダーの視線の方向に進むもの。
気がつけばアフリカも女の子が飛び込んだ場所に向かっていた。
 
前輪がゆっくり落ちたその瞬間、眼下に断崖絶壁のガケと、はるか数十メートル下を流れる川が目に飛び込んだ。
あわててバイクから飛び降り、近くの木に飛びつき、バイクも数メートル下の木にひっかかった。
 
ほとんど垂直のようなガケを、なんとかよじ登ったところに、後続のエントラントがやってきた(たぶん池町くん)。
ガケから急に人が這いだしてきて、彼も驚いていたが、後続車をすべて止めてくれて、全員が装備品の10mロープを出し、40人がかりで重いアフリカを引っぱり上げてもらった(まるで{地引き網状態)。
リエゾンで助かった。競技区間のSSならだれも止まってくれない)
 
カウルにヒビが入ったくらいでエンジンもかかり、人もバイクも奇跡的に無事だった。
.....と喜んだのもつかの間、フロントホイールのスポークがほとんど折れていた....。
 
クルマで来たオフィシャルから、ペナルティだけでリタイアにはならないから、エマージェンシー封筒を開けて、今日のキャンプ地を目指すよう指示されて、来た道をゆっくり戻った。
(オフィシャルに助けてもらったら、即失格です)
 
市街地に出てバイク屋さんを探すが、ゴールデンウィークの真っ最中でどこも閉まっている。
さんざん走りまわってあきらめかけたとき、なんとなく開いていそうなバイク屋さんを見つけた。
古いたたずまいのガラス戸を開けて声をかけると、奥からご主人らしき人が出て来てくれた。
 
事情を話すとオフロードもやっているらしく、廃車のXRのが合うなら使っていいと言われた。
急いでホイールからスポークを外し、アフリカにつけるとピッタリ。
十数本を移植してお金を払おうとすると、いらないと言われた。
「TBIに出てるんならがんばりなよ」
と言われ、お礼を言ってキャンプ場を目指した。
 
その日のキャンプ地は徳島県の「美馬モトクロスコース」の駐車場、
すでに到着していた他のエントラントたちは、絶対辿り着けないと思っていた私が戻ってきたのを、驚きながらも歓迎してくれた。
 
その日最後のSSに間に合ったのでスタートしたが、坂の上から椅子に座って見下ろしている、スガワラ爺と主催者の山田さんの目の前の激坂のぼりで、酷使していたクラッチがご臨終。
私のTBIはここで終わった。
 
それにしてもあの剣山の少女はなんだったのか。
スポークを分けてくれたバイク屋さんに話すと、
「あそこは霊場だからなぁ」
とよくわからない答えだった。
 
エントラント、オフィシャルの誰に話しても信じてもらえなかったが、実はその前にもほとんど人も通らない、昼でもうす暗い林道で、ねずみ男のようなボワッと光る「なにか」が、山側のコンクリートのカベに吸い込まれていくのを見た。
 
以来3度TBIに参加したが、トンネルの入り口の上や信号の上に座って、こちらをじーっと見ている子供たちを、何度か見かけた。
 
やはり四国は霊場なんだろうな。