R1250GS カフェしなの

R1250GS、事故で廃車から買い替えました

忘年会2

 

子供が生まれてからは
「接待はしない・させない・すすめない」
をモットーに暮らしている。
 
知り合いから
「銀座にカワイイおねーちゃんが入ったから行こう」
とか、
「六本木で松下奈緒似の子がいるから行こう」
と言われても、
 「どんなにかわいくてもウチの娘が一番カワユイのだ」
と断っていたら、今では誰からも誘われなくなった。
 なので
「忘年会が連チャンでつらい」という、かわいそうな御仁が多いこの時期も、いつも通り6時に保育園へお迎えに行き、娘が寝るまでラヴラヴの暮らしを楽しんでいる。
 
そんなある日、20数年前働いた不動産会社のOBで、今は青山で不動産屋をやっているKさんから電話が。
 
Kさん「急で悪いんだけど、今晩空いてるか?」
 
ワタシ「どうしました?」
 
Kさん「毎年OBが集まって忘年会やるんだけど、おまえ酒飲まないから誘わなかった   んだよ。でも○○さんが急用で来れなくなったんで、飲まなくてもいいから来ない   か」
 
Kさんは米どころ新潟出身らしく、日本酒が大好きな酔っ払いおやじ。
でも黙っていればかなりかっこいい、「こんな歳の取り方をしたい」と思わせる御仁。
むかしKさんの家で飲んだことがあるが、体質なのか日本酒はすぐ気持ちが悪くなったので、それで飲めないと思ったらしい。
 
たしかに私は酒は弱く、いろいろな意味で「意外に見かけ倒しナノネ」と言われてきた。
生ビールは2杯でおなかいっぱいになってしまうし、酔って顔も真っ赤っ赤。
なのでワインやウィスキーの水割りを飲むようにしているが、気持ち良くなる前に眠くなってしまうので、浴びるほど飲める人がうらやましくて仕方なかった時期もある。
 
自宅のある戸越銀座には、居酒屋がたくさんある。
カウンターだけの小料理屋に、篠ひろ子似のおかみがいる店もソソられるが、日本酒はおろか瓶ビール1本、飲み切る自信が無いので、一人で行ったことが無い。
 
でもこの会社は楽しかった思い出ばかり。
懐かしい面々も来るというので、参加させていただいた。
 
「渋谷の居酒屋で7時から」とのことだが、妻が仕事でちょっと遅くなる日だったので、
「7時半ごろ伺います」と伝えると、
「飲み放題90分だから、なるべく早く来いよ」って。
 
酒の飲めない私にとって、飲み放題ほど苦痛はない。
「ビール何杯飲んだら元が取れる」なんて、呑み助のおやぢたちは競っているが、美味しそうに飲んでいる姿を見ると、うらやましくなる。
 
7時半に着くとすでにおやじたちはベロベロ(いったい何杯飲んだんだ?)
 イメージ 1
不動産業を生業にしているのは、私とKさんの二人だけ。
Sさんはアパレル会社の社長さんだが、会話の99%はおねーちゃんの話し。
Yさんは若いときアメリカを放浪して、古着と中古家具の輸入を手掛け、東京に有名店を作ったが、会社を他人に売った金で沈没船の財宝を探す、「トレジャーハンター」をやっているとか。
 
某二輪四輪メーカーを辞めてから、本格的にロードレースをやりたくて、高収入のバイトを転々とした。
日刊スポーツの求人欄には、「??」という仕事がたくさん載っている。
 
「仮面高収入」の広告に惹かれて、五反田の事務所を訪ねると、そこはSMクラブだった。
 
さすがに引いたが社長さんが
「これからショーがあるから、ちょっと見て行けば」と言われ、怖いもの見たさで覗いてみた。
 
マンションの一室を使った会員制クラブらしく、薄暗く狭い店内で10人ほどの客が、ショーの始まるのを待っていた。
 
黒いビロードのカーテンが開くと、そこはステージ
ハゲた小太りの中年男性が、目だけを派手な仮面で隠して、ブリーフ一丁で縛られている。
そこにボンテージに網タイツの女王様登場。
 
卑猥な言葉で命令しながら、ムチで叩いたりロウソクを垂らしたり。
ブログにはとても書けないようなプレイへと、どんどんエスカレートしていく。
シーンとした客席から聞こえてくるのは、「ごくっ」とのどを鳴らす音だけ。
どうやらここはソフトSMの店ではなく、「ホンモノの」店らしい。
 
 ショーが終わってから縛られた男性と話す機会があった。
昼間は普通のサラリーマンだという彼は45歳。
「子供の塾に家のローンが大変で、アルバイトのつもりで始めた」らしいが、
今では叩かれないと眠れないらしい。
 
「キミもやってみれば意外にソノ気になるかも」
黄色く濁った男の目が酔っているように見えて、思わず目をそらした。
 
これ以上深入りはしたくないので、結局この仕事は辞退した。
 
他にも消火器の訪問販売とかフーゾクとか、いろいろなバイトをしたが、どれも長くやる仕事ではなかった。
 
そんなとき友人の彼女が六本木のガイジン専門不動産会社に勤めていて、最近独立した上司を紹介してくれた。
 
事務所のある西麻布のマンションに着くと、ロビーにはビックリするくらいきれいな、ガイジン女性が数人たむろして、英語やフランス語で話しをしていた。
4階にある探偵事務所のような内装の事務所に入ると、日本人だがジーンハックマン似の、顔中ヒゲだらけの風貌にパイプをくわえた男性が、彼女の言う元上司だった。
 
「ウチはまだ独立したばかりでシロートは雇えないから、どこかで勉強しておいで」と言われ、「やるなら港区がいいぞ」とも。
 
すっかりその気になり、文房具店で履歴書を大量に買い、アパートに帰って書けるだけ書いた。
 
翌日から港区の不動産屋回り。
といっても30年近く前の話し。
今のようにインターネットもなければ、なんの情報もない。
とりあえずバイク(たぶんCB400four)で走り回り、視界に入った不動産屋を見つけて飛び込んだ。
 
ベタベタ張り紙がしてあるガラス戸を開けると、男性が3人、机に座っていた。
 
ワタシ「すみません、不動産やりたいんですけど、こちらで募集していませんか」
 
相手「???」
 
さすがに飛び込みで来るヤツは初めてらしく、みんな面食らっている。
 
「今日は社長が休みだから、よかったら連絡先を教えて」と言われ、
持参した履歴書を渡した。
 
「どこか雇ってくれそうなところはありませんか」と聞くと、
「この先に○○不動産があるから行ってごらん」と言われ、そこへ行った。
 
「うちは募集してない」
と言われたら、またどこか紹介してもらう。
 
こうして麻布、六本木、赤坂、青山と30件ほどを回ったが、
声をかけてくれたのは一番目に飛び込んだ元麻布の店と、赤坂の店だけだった。
 
赤坂の店はちょうど募集をしていたらしく、店長という人が相手をしてくれた。
ここは賃貸専門とかで、店もきれいでスタッフもきびきび働いている。
 
「キミみたいに自分から来るヤツは珍しいけど、おもしろい。
よかったら明日から来ないか」と言われた。
 
帰宅するとアパートの大家のおばあさんから、
「○○不動産から電話があったよ」って。
 
今と違って携帯もまだ無く、自分の部屋に電話もなかった。
 
公衆電話で最初に行った、元麻布の店に電話すると、
「あー昨日の人ね、社長が会いたいっていうけど、これから来れる?」って。
 
急いでバイクで向かうと年配の社長が待っていた。
 
「ウチは完全歩合制で給料はないんだよ。でもキミのように自分から来るのはおもしろいから、特別に3か月間は月給20万円で、見習いとして雇ってあげよう」とのこと。
 
赤坂のほうが店もきれいだし、なにより固定給+ボーナスで安定している。
でも元麻布のほうが店はボロボロの木造平屋だけど、3カ月後の収入の保証はないが、フルコミッションはやったぶんだけカネになる。
なにより働いている3人のおじさんが、いかにもアウトローっぽくてかっこよく見えた。
 
結局、赤坂の店長に断りの電話をしたが、実はこの店長もこの元麻布の店の出身で、「あそこは個性的だからがんばれよ」と、よくわからない励ましの言葉をいただいた。
 
このとき私にいろいろ教えてくれたのが、Kさんだった。
 
低血圧と二日酔いで、朝必ず遅刻するKさん。
実は社長もアル中で、会社に来るのも週に3日くらいだが、たまに来ては
「Kはまだか? お前呼んで来い」
とクルマでKさんを迎えに行くのが、私の役目だった。
 
勤めた初日、なにをどうしたらいいのか、さっぱりわからないが、とりあえず机に座っていたら、ガラガラととびらが開いた。
 
入ってきたのはニコール・キッドマンに似た、金髪の外人女性。
 
とたんにKさん含めアウトローおやじ二人は、彼女に向かって両手を広げ、
「ノーノー」って。
 
場所柄ガイジンが多いエリアなのに、どうやら誰も英語がしゃべれないらしい。
 
メーカーで海外生産ブロックにいた私は、いちおう英語が話せた。
とりあえず彼女に
「何をお探しですか?」と聞くと、
「15万くらいで部屋を探している」という。
 
「おまえ、英語話せるのか??」って驚いていたが、彼女の希望を伝えると、
「西麻布の○○マンションならガイジンOKだから、おまえ案内してこい」って。
 
案内と言われてもどうしていいかわからないが、とりあえず大家から預かっているカギを持って、彼女と歩いて向かった。
 
ロスから来たという彼女はプロのファッションモデルで、日本の仕事は初めて。
2年は滞在して働くという。
聞くとモデル事務所のある場所は、あのジーンハックマン社長のマンションだった(ロビーにいた外人は全員デルモ、どうりできれいなわけだ)
 
部屋を見せると和室の畳が珍しいらしく、しきりに「cute!」を連発。
ここに決めるという。
と言われてもどうしていいかわからない。
 
とりあえず彼女と店に戻り、借りたい旨を伝えると、Kさんが大家に話を付けてくれ、契約も代わりにやってくれた。
 
そんなわけで私の初めての仕事が決まり、それを聞いた社長が、
「おまえにこの店のガラス戸1枚をやるから、全部英語で張り紙を書け」と言われた。
 
この店のある通りは、今の六本木ヒルズのすぐ近くにあり、広尾も近かったのでガイジンさんもたくさん住んでいた。
 
と言ってもこの店の管理するマンションで「ガイジン可」は少なく、広告するものが無い。
部屋を世話して以来、親しくなったモデルの彼女に相談すると、
「外人はジャパンタイムスの外人向け不動産情報で探す」らしい。
ジーンハックマン社長にも相談すると、英字新聞の「ジャパンタイムス」に広告を載せて いる、外人専門の不動産屋さん数社を紹介してくれた。
 
英字新聞の広告風に
「Huge!!(広い)LDK & 2 bed rooms」とか(そんな広くないけど)
外人が好みそうな「Nice japanese den (日本庭園 )」などいろいろ書いて(実際は2畳ほどの狭い庭)、店頭の窓ガラスにベタベタ貼ってみた。
 
この店の先には大手の外人専門不動産会社があるが、今も昔も白人、それも「WASP」と呼ばれる「エリートアングロサクソン優先」らしい。
 
なので断られた「それ以外のガイジンたち」が、みんなこの看板を見て入ってきた。
 
肝心の忘年会の話しに入らないうちに、残りの行が無くなったのでまた次回。