先日また所用でタチバナさんを訪ねた。
意外に英車や旧車好きなマニアから、
「その後タチバナさんのマシンはどうなりました?」
と聞かれることが多く(ならブログにコメントしろよって)、
隠れタチバナファンも増殖中(らしい)
その1階のガレージでは
組上がったはずのトライトンが、またバラバラに。
その横で悩むタチバナさん。
もう何十回バラしたか分からないというトライアンフ。
プロのスナイパーが暗闇の中でもライフルを組み上げるように、
この人も手探りでエンジンを組めるんじゃないか。
ところが今回は
「バルブクリアランス取り直して組んだら、うまく回らない」とか。
12月のレースに向けて、週末はサーキットで練習するつもりだったが、
また組み直さなければならないので、泣く泣くキャンセルしたという。
心配なのはエンジンがこれ1基しかないということ。
現行のマシンならスペアエンジンも簡単に手に入るが、なにせ50年も前のバイク。
それを限界まで軽量化して、面取りもして、熟練の手で組み上げている。
でも何度も何度もバラしては組んでいると、「鉄」が減ってくるのでは?
「それが心配なんだよ」とタチバナさん。
ボルトもナットもすり減ってくるし、何回も締めたり緩めたりでは、
各パーツも微妙に歪みが生じるだろう。
それでもうれしいことはあったようだ。
真ん中のダンパーは友人のエンジニア氏から譲られたもの。
左右の斜めのフレームも、強度不足による「振れ」を抑えるため、後付けしたものだが、Fブレーキを引くとFドラムのロッドが引っ張られ(赤丸部分)
コーナーでどうしてもバタつくため、おもいきり攻められない。
それを抑えてくれたのがこのダンパー。
効果は抜群で
「ピタッと吸い付くよう」とか
でも考えてみればこのマシンがレースをしていた50年前。
こんなダンパーもないし、レーサーTZのドラムブレーキも高性能のタイヤも無かった。
そんな条件のなか命を懸けて走っていたライダーたちには、本当に頭が下がる。
エンジンばらしで忙しいなか、こんなものも手作りしていた
AJSのクランクケースで作ったスポットライト。
私には価値が分からないが、これもマニアにはたまらないんだろうナ
ガレージに整然と並べられたマシンたち。
もちろんすべてナンバー無しのレーサー。
「あれ?何台か売ってその金で、ギンギンのレーサー作るって言ってませんでした?」
と聞くと
「なかなか売れないんだよ」って.......
ナンバー付きの旧車なら欲しい人はいるのだろうが、
レーサーとなると(特に英車の)買える人は本当に少ない。
他人のことは言えないが
「もっとチャレンジしてほしい」
と思う。
「あれやったらダメだよね」って。
「技術屋のくせに手を油で汚さないヤツは、絶対信用できない」とも。
数年前はハイブリッドや電気自動車の開発に力を入れるトヨタを、
「欧米の主流はクリーンディーゼルなのに、日本人はなにをやっているのか」
と嘲笑っていた海外メーカーだが、改めてトヨタや国産メーカーの選択は、間違っていなかった(と思う)。
タカタのエアバッグを採用しないと発表した、国産メーカーには正直ガッカリしたが、クルマが売れない国内でなく、海外の売り上げに頼る現状で仕方ないか。
欧米ではディーゼルの大衆車であることを、知る日本人は意外に少ない。
そろそろヨーロッパ車より日本メーカーのほうが、はるかに優れていることに、気がついてもいいと思うのだが。
毎回、いくらいじっても思い通りにならないマシンのことで
「泣きたくなるよ」
「困った困った」
と言っているタチバナさんだが、こんな幸せな悩みは無いだろう。
オトコの憧れを絵にかいたようなガレージに一日中こもり、
GP好きな奥様の理解もあり、息子と一緒にサーキット通い。
スガワラ爺と同じ74歳(72かと思っていた)
「ほんとうに菅原さんはあの歳でラリーやって、すごいねえ」
というアナタもじゅうぶん凄いと思いますが,,,,
追記
ブログを読んだタチバナさんからさっそく訂正のメールをいただいた。
ブログを拝見しました。
赤い丸はちょっと違います。
丸を付けるならフレームのヘッドパイプ部分です。
これはヤマハのパーフォーマンスダンパーといって、
車体の振動を抑える効果があります。
クルマでもバイクでも路面から刺激が入ると、必ず反力が発生します。
この反力が色々と悪さをしていて、これが消えると乗り心地も音も良くなります。
特に効果があるのはタイヤの接地性が向上することです。
そのためコーナリングスピードが上がり、サーキットタイムが短縮します。
このノートンのフレームで効果が大きかったのは、ブレーキ性能です。
と言うのはFブレーキを掛けると、ヘッドパイプが前後方向にわずかですが振動します。
以上、ご参考までに。
とのことです。
いまだに毎日、油まみれの手でマシンをいじっている
「元祖技術屋」の言葉は重い。