梅雨で天気があやしかった土曜、
それでも自転車に乗りたいオジサンたちは、東京から120kmのお山に集まった。
メンバーは2000m級の山に数時間、MTBを押して(担いで)あがり、10km以上のダウンヒルを楽しむYさんと、その仲間と私の5人。
7時に集合、車2台に分乗して山の上を目指す
「あれ?押し上げるんじゃないの?」
と思ったが、実はだれも好き好んで押し上げなんてやりたくないとか。
クルマで行けるところまで行くが、「車道」がない山は仕方なく押すらしい。
シングルトラックの登山道入口にクルマを停めれば、ほんの100m自転車を押し上げるだけで、ゴキゲンな下りのトレイルが待っている。
昨日から
「雨のなか、何時間押し上げるんだろう?」
「途中で体調不良やマシントラブルで迷惑かけたらどうしよう」
とかなりビビっていたので、ちょっと拍子抜けしたけど、やっぱり下りは楽しい。
じつはここはモンキーズと2年間、毎週のように走り回ったお山から、10キロほど離れた場所。
岩だらけで狭いトレイルはまるで同じシチュエーション。
2年前、
「こんなところ絶対走れない」
なんてところを軽々と走っていくモンキーたちに、置いて行かれないよう「前後左右」にコケながら、必死に追いかけたのを思い出す。
大雨の影響か何か所も大きな倒木が道をふさいでいて、そのたびにYさんたちがリュックから「のこぎり」を出して、手際よく切ってはどかして行く(トレイルにのこぎりとロープは必需品)。
停まるとザーザー雨の降る音は聞こえるけど、森のなかは意外に雨が落ちてこない。
トライアルのロックセクションのようなガレ場も同じ。
クソ重い鉄のハードテイルで、ヒイヒイ言いながら走っていたのに比べれば、スーキャリはほんとうにラクに下れる。
今日は私以外の全員がハードテイル。
みなさん曰く
「いいなぁフルサスは」
と羨ましがられるが,
スーキャリのキャッチフレーズは
「ハードテイル以上、フルサス未満」
だし、私が思うフルサスは
「前後サスがもっと(140mm以上)長いもの」
だと思っていたが、
「フルサスなんてオンナ子供が乗るものさ」
なんてうそぶく「ハードテイラーの漢(オトコ)たち」からすれば、前後サスが動くスーキャリは
「立派なフルサスバイク」
らしい。
Yさんがガイド役として先頭を走り、私が続く。
こちらのレベルを察知してか、かなりゆっくり「丁寧なライン」で走ってくれる。
(スキーのエキスパートが子供にボーゲンを教えるように(^-^;)
今回は私と同じくもう一人、MTBビギナーの人がいたので、ガレ場や難所のたびに
「ここから岩場です」
とか
「滑るので気を付けて」
とアドバイスしてくれたり、難所の先で待っていてくれる。
走り方についていろいろ質問すると、これまた丁寧に答えてくれる。
極論を言えば
「下りでブレーキは使わない」
これは別のエキスパートライダーにも、以前言われた言葉。
エンジンブレーキの無いMTBで、どうやってブレーキ使わずに下るのか?
これは私にとって永遠のナゾだが、「プッシュ&プル」というアクションにヒントがあるそうな。
連続した細いつづら折れの下りは、曲がり切れずに飛び出すことが多いが、しっかり荷重をかければ大丈夫とのこと。
後半はいろいろ考えながら走ってみる。
森が抜けたところはザーザー降り。
せっかく来たんだからもっと走りたかったが、岩場はツルツル滑って危ないので、午前1本で今日はこれでおしまい。
本来なら下に停めたクルマにもう一度「相乗り」して、シャトルで上がってを繰り返し、3往復するらしい。
近所の温泉に入りながらいろいろ話す。
Yさんの「コナcarbon」と私のスーキャリを交換して走ってみたが、Yさんの感想は
「もうすこしフロントサスを長くしたほうが乗りやすい」
とのこと。
スーキャリはクロカン用バイクだが、クロカンレースには長い登りや下りはないし、極端なガレ場もないので、タイヤも薄いクロカン用でいいし、長いサスも必要ない。
そもそも私がこれを選んだ理由は、
「長い登りをとにかくラクに登れるように」
だった(下りはどうやっても下りられるので、正直「下りは捨てていた」)。
でもタイヤを太いダウンヒル用に替えてみると、クロカン用より大きなブロックがしっかりグリップしてくれて、今まで捨てていた下りが楽しい。
50cm以上の岩や木の根のドロップオフを降りるとき、
「もう少しFサスが長かったら」
と思う場面は、先週のお山でも感じたこと。
でもこれでバランスが取れている(はずの)マシンの、Fサスを伸ばすなんてできるのか?
Yさんに聞くと
「簡単です」
って。
Yさんは走るのもいじるのもエキスパートで、自他ともに認める「機材マニア」。
気になるものはとにかく一度買ってみて、とことん使い倒して、気に入らないパーツはどんどん自分で換えて、納得するまで「いじり倒し」て「乗り倒す」。
もともとは4輪でサーキットレースをしていたそうで、加工もお手の物。
一度乗っただけで気に入らず、売ってしまったMTBも数知れず。
8年前にMTBに戻ってから、1000万以上を自転車やパーツにつぎ込んだとか。
自称ライターがメーカーに都合のいい「ちょうちん記事」を書き、メーカーからのマージンが多い自転車やパーツを売りたがるショップと違い、すべて「自腹」なYさんの言葉は重い。
彼が目指すのは「とにかく速くて軽いMTB」
ほとんどのメーカーのMTBを自腹で買い、世界中のパーツを個人輸入で仕入れ、今もひたすら改造の日々を送っている。
この日もライドの途中
「ちょっと休憩しましょう」
と停まったとたん、おもむろにリュックからスプリングを出して、Fサスのスプリング交換を始めた。
「昨日変えたのがちょっと柔らかすぎたので」
って、こんな山の中でスプリング交換する人を初めて見たけど、Yさんの仲間たちは
「いつものことだから」
とだれも驚かないし、あっというまに交換してしまった。
自転車を担いでソロで2000m級の山に登り、10数キロのダウンヒルを楽しめるのも、なにがあっても対応できる、経験とウデがあるから。
下りを楽しむために頑丈なタイヤやサス、フレームを付ければ重くなって、担いで登るのが大変。
この相反する矛盾を、カーボンパーツやチタンスポークなどを多用して、Yさんオリジナルのスペシャルマシンを作っている。
欧米問わず中国製もどんどんテストして、中華製でもいいものはたくさんあるそう。
反対に有名メーカーでもすぐ壊れたり、使えないものも多いとか。
Yさんのお仲間たちもみんな、Yさんの「おさがり」のMTBや、パーツを安く組んでもらっている。
「自転車屋さんですか?」
と聞くと
「ただの機材マニアです」
って。
もっと早く知りあっていいれば、スーキャリの半分以下の値段で、Yさんスペシャルを作ってもらえただろうが、こればかりは仕方ない。
今日会えたことに感謝して、スーキャリを「登りがラクで下りも楽しい」、スペシャルマシンにしてもらおう。
まだまだ走り足りないYさんは、このまま富士山まで行って車中泊して、明日の早朝から周辺のお山を一人で登って下って、昼ごろ「ふじてん」に行くかも?とのこと。
私も行きたいが万が一、ふじてんでケガでもしたら、ひとりだとクルマで帰ってこれないので、残念だけどあきらめた。
渋滞前に帰宅して洗車&洗濯
今日も前後左右「まんべんなく」転んだので、いろいろキズついて「貫禄」がでてきたなぁ.....(*_*)
と、ひさびさにHさんから
「あした休みになったので、ふじてん行かない?」
と連絡が。
YさんとHさんは面識があるとのことで、われわれもふじてんへ行くことに。
朝6時にHさんを迎えに行き、ふじてんに到着したのは8時半。
それでも数十台のMTB乗りが来ていた。
梅雨の中日で曇り。時々晴れ間もでて絶好のMTB日和
ジャージ一枚ではちょっと涼しいくらい。
グラススキーのお客さんもちらほら
火山灰なので水はけはいいが、雨が続いて土がかなり流れてしまったらしく、50cmくらいの根っこの段差がそこらじゅうにあり、かなり危険。
お昼ころになると駐車場はほぼ満車。
みんなイスとテーブルを出して、食事を作ったり談笑したりで、思い思いの時間を過ごしている。
曇り空だけどときどき日差しもある。
冬はスキー場なので食堂もあるが、「ラーメンのスープがいつもぬるい」とか、さんざんの評価。
なので事前にコンビニで買ったラーメンとおにぎりで昼食。
と、イスとテーブルを忘れたので地べたリアン。
「山」から下りてきたYさんに会えたので、昨日お願いしていた「ハックノリス」をタイヤに入れてもらった。
ハックノリスとはチューブレスタイヤのなかに入れる「緩衝材」のことで、ラリーで言う「ムースタイヤ」みたいなもの。
同じ緩衝材では「クッシュコア」のほうが、ほとんどのMTBショップではおススメらしいが、もちろん自腹で両方試したYさん曰く
「ハックノリスのほうが軽いし、リム打ちしない」
そう。
午後は空気圧を低くして走ることができたので、グリップもよくなったような。
でも調子に乗って思い切り転んだけど。
Yさんの左腕には大きな傷あとが。
5年前、ここで転倒してあわや左腕切断の、大事故に遭った。
かなりのハイスピードで転倒した際、頭をかばって左腕を地面についたら、骨が粉砕骨折、
二の腕が皮だけでかろうじてつながっている状態で、ドクターヘリの医者からも
「切断になるかも」
と言われたとか。
本業がトラックドライバーのYさんは
「片腕になったら障碍者用トラックに替えられるかなぁ」
と思ったとか。
あばらや他の骨も数本折れたらしいが、奇跡的に切断はまぬがれた。
このときはフルフェイスヘルメットとブレストガード、プロテクターもつけていたのになんの役にも立たなかった(いやいや、役に立ったと思うが)。
なのでそれ以来、「プロテクター無し」で走っていて、この日も半袖Tシャツにジーパンの軽装。
まあ自分のことは自分が一番よくわかっているのだから、私のようなビギナーはなにも言うまい。
この日もYさんに先導してもらい数本走ったが、とにかく走りがスムーズで美しい。
速い人はみんな自転車を倒し込んで走る「リーンアウト」だが、Yさんは「リーンウィズ」。
彼にすればこの程度のスピードなら、リーンアウトしなくても走れるのだろうが、後ろから見ていてホレボレするほどキレイに走る(でも速い)
同じMTB乗りながらクロカン系のHさんと、山系のYさんはまるでジャンルが違うらしい。
一日中、上ったり下ったりを繰り返すクロカンは、アスリート系
反対に何時間も自転車を担いだり押し上げたりして、山頂からいっきに下るのは、アルピニストのようなものか。
Yさんいわく
「ほんとうは登りが大きらいなので、クルマで上がりたいけど、クルマで行ける道が無いところは、しかたなく何時間も押したり担いでる」
らしい。
Hさんはとにかく「自力で登りたい派」。
でもロングトレイルを下るために、何時間も押したり担いだりはしたくないそう。
なのでたぶんこのふたりが一緒に走ることは無いのだろう。
中央高速が渋滞する前に帰ろうと、2時半にふじてんを出た。
小仏トンネルで数キロ渋滞したけど、Hさんを自宅に送り、5時前には帰宅できた。
自転車を洗車してからプロテクターとウェアも洗濯。
メカオンチで「情報弱者」の私は、ショップやネットの言葉を信じて、ペテン師のショップにだまされ続けたが、Yさんと知り合って考えがガラッと変わった。
「中華製はダメ」
という情報を信じて、パーツなどに高いカネを払っていたが、Yさんいわく、
「中華製にも安くていいものはたくさんあります」
とのこと。
拝金主義の自転車屋やメーカーににだまされず、ますます楽しい「MTBの沼」にハマる予感が.....。